美容室の開業届と保健所の手続き:必要な資格・書類・届出の順番

開業前の美容室の施術台に、届出の書類の束と店の平面図と印鑑が並べて置かれている様子

美容室の開業届は、保健所に出す「美容所の開設届」と、税務署に出す「個人事業の開廃業等届出書(開業届)」の2つに分けて考えると整理できます。美容所の開設届は営業を始める前に出し、保健所の検査確認を受けてからでないと店を使えません。税務署の開業届は、事業を始めたあとに出す書類です。美容師が常に2人以上いる店では、管理美容師を置くことも法律で決まっています。一方で、添付する書類、診断書の有効期間、手数料は自治体ごとの決まりです。この記事では、全国共通のルールと地域で違う点を分けたうえで、開業日から逆算した届出の順番、書類のチェック表、開業後の変更届までを説明します。開業資金や物件選びを含む全体の流れは、美容室の開業ガイドをご覧ください。

美容室の開業に必要な届出の全体像:保健所・消防署・税務署

美容室の開業で出す届出は、出す先ごとに目的が違います。次の表は、主な届出を出す先ごとにまとめたものです。消防署の欄は東京消防庁の案内を例にしています。

出す先主な届出出す時期根拠・出典
保健所美容所の開設届と、構造設備の検査確認営業を始める前(あらかじめ)美容師法 第11条・第12条
消防署防火対象物使用開始届出書(東京消防庁の例)使用を始める7日前まで東京消防庁の案内
税務署個人事業の開廃業等届出書(開業届)事業を始めた年分の確定申告期限まで国税庁 タックスアンサー No.2090
税務署所得税の青色申告承認申請書(青色申告をする場合)原則3月15日まで。1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内同上
税務署給与支払事務所等の開設届出書(人に給与を払う場合)開設の日から1か月以内同上

国税庁の同じページでは、都道府県税事務所、年金事務所、労働基準監督署などにも届出が必要な場合があると案内しています。人を雇うか、法人にするかで出す書類が増えるため、税務と労務は税理士や社会保険労務士に確認すると確実です。

全国共通のルール:美容師法が定める3つのこと

美容所の手続きの元になっているのは、美容師法です。厚生労働省の「美容師法の概要」と法律の条文から、開業にかかわる点を3つに絞ると次のとおりです。

美容所の開設届と、使用前の検査確認

美容所を開設しようとする人は、美容所の位置、構造設備、管理美容師その他の従業者の氏名などを、あらかじめ届け出なければなりません(第11条第1項)。届出先は条文では都道府県知事ですが、保健所を設置する市や特別区では市長・区長になります。実際の窓口は、店のある地域の保健所です。

届け出たうえで、構造設備の検査を受け、衛生上の措置を講じるのに適すると確認されるまでは、美容所を使えません(第12条)。届出をしない場合や、確認の前に使った場合には罰金の規定があります(第18条)。つまり、内装が完成した日にすぐ営業できるわけではなく、検査と確認の日を開業日より前に確保する必要があります。

美容師の免許と、美容所で施術すること

美容を業として行えるのは、厚生労働大臣の免許を持つ美容師だけです(第6条)。厚生労働省の概要では、業とは反復継続の意思をもって行うことで、有料か無料かは問わないと説明されています。美容師は原則として美容所で施術しなければならず、病気で来店できない人や、婚礼などの儀式の直前の施術など、決められた場合に限って出張できます(第7条)。

美容師が常時2人以上なら管理美容師を置く

美容師である従業者が常時2人以上いる美容所では、開設者は美容所ごとに管理美容師を置かなければなりません(第12条の3)。管理美容師になれるのは、美容師の免許を受けたあと3年以上美容の業務に従事し、都道府県知事が指定した講習会を修了した人です。開設者自身がこの条件を満たしていれば、自分が主に管理する1つの美容所で管理美容師になれます。東京都保健医療局と鹿児島市の案内では、講習会の受付は公益財団法人 理容師美容師試験研修センターが行うとされています。

美容師が自分1人だけの店では、管理美容師の規定はかかりません。ただし、開業後に2人目の美容師を雇うと条件に当てはまるため、講習会の日程を早めに確かめておくと慌てずに済みます。1人で開く場合の準備は1人美容室・自宅サロンの開業にまとめています。

まつげエクステも美容所の手続きの対象

厚生労働省の概要では、染毛やまつ毛エクステンションも美容行為に含まれると説明しています。札幌市のよくある質問では、まつ毛エクステンションやまつ毛パーマ、まゆ毛の流れを整える施術にも美容所の開設届が必要で、保健所の確認を受けた美容所で美容師が行う必要があるという回答です。横浜市港北区の案内も、まつ毛エクステを行う場合は美容所の適合確認が必要としています。マツエクのサロンを開く場合も、美容室と同じ手続きを前提に準備してください。

自治体で違うこと:書類・診断書・手数料の例

条文で決まっているのは届出と検査確認の仕組みまでで、添付する書類や手数料は自治体ごとに定められています。編集部が2026年10月18日に確認した3つの自治体の案内を並べると、次のとおりです。これは例であり、全国共通の基準ではありません。

項目札幌市(保健所)横浜市港北区(福祉保健センター)大阪府(府の保健所)
開設届所定の様式第1号様式 1部様式第1号 2部
図面施設平面図。ビル内のテナントはフロア全体図も施設の平面図(配置・寸法を記入)2部、付近の見取図1部案内の資料で確認
美容師免許証全員分。写しも可従事する美容師全員分の原本(確認後に返却)従業する美容師全員分の原本
診断書の対象従業員全員(見習い・手伝いを含む)従事する美容師全員従業する美容師全員
診断書の有効期間診断日から6か月以内診断後3か月以内ページに記載なし
管理美容師の書類美容師が2名以上の施設は講習会の修了証(写しも可)2人以上の場合は修了証書の原本常時2名以上の場合は管理美容師を証する書類の原本と写し2部
法人の場合登記事項証明書(発行から1年以内)登記事項証明書(発行から6か月以内)ページに記載なし
手数料18,000円(現金のみ)16,000円(現金)16,000円
出す時期の目安営業開始の2〜3週間前開設希望日の1〜2週間前事前に届出

大阪府の案内は、大阪市・堺市・豊中市など府内の9市では各市の担当部局に問い合わせるよう書かれています。同じ都道府県の中でも窓口が違うことがあるため、店の住所を管轄する保健所のページを最初に確かめてください。

構造設備の基準も地域で定められています。札幌市の案内では、作業場と客待室があること、セット椅子の台数に応じた作業場の面積、洗髪の設備とは別に手指・器具を洗う流し台があること、ふた付きの汚物箱と毛髪箱などを主な基準に挙げています。面積の数値は自治体の基準で確かめ、工事の前に図面で相談するのが確実です。

診断書で確かめること

診断書は、地域によって扱いが違う書類の一つです。3つの自治体とも、結核と感染性の皮膚疾患の有無を記載した診断書を求めています。札幌市は様式のサンプルを公開しており、作成してくれる医療機関の紹介は行っていないこと、費用は医療機関に問い合わせることを案内しています。

有効期間は札幌市が6か月以内、横浜市港北区が3か月以内と違います。早く取りすぎると提出の時点で期限が切れることがあるため、届出を出す日から逆算して受診日を決めてください。対象が美容師全員か、見習いを含む従業員全員かも、地域の案内で確かめておく項目です。

開業日から逆算する手続きの順番

美容室の手続きは、開業日を決めてから逆に並べると漏れが減ります。次の表は、札幌市・横浜市港北区・東京消防庁・国税庁の案内にある時期をもとに、編集部が順番を整理したものです。期間は地域や工事の内容で変わるため、自分の地域の案内に置き換えて使ってください。

順番時期の目安すること時期の出典
1物件の契約前後図面を用意し、構造設備の基準に合うかを保健所に相談する札幌市(工事前)、横浜市港北区(工事前)
2工事の前図面を固めてから内装工事に入る。消防の届出が要るかも工事業者と確かめる東京消防庁(改装工事後・テナント入れ替え後は届出が必要)
3開業の2〜3週間前(札幌市)、1〜2週間前(横浜市港北区)書類と手数料をそろえて開設届を出し、検査の日を決める札幌市、横浜市港北区
4使い始める7日前まで管轄の消防署に防火対象物使用開始届出書を出し、検査の日程を相談する東京消防庁
5開業の数日前保健所の検査を受ける。店内は営業時と同じ状態にしておく札幌市(2〜3日前)
6検査のあと確認を受けてから営業を始める。横浜市港北区では検査後1週間程度で適合確認書を発行美容師法 第12条、横浜市港北区
7開業したあと税務署に開業届を出す。青色申告にする場合は承認申請書の期限に注意する国税庁 No.2090

この順番を図にすると、次のようになります。

美容室の開業日から逆算した手続きの順番の図。1 物件と図面で保健所に事前相談、2 図面を固めて内装工事、3 開設届を出し検査の日を決める、4 消防署に使用開始届(東京消防庁の例では7日前まで)、5 保健所の検査、6 確認を受けてから営業開始、7 税務署に開業届と青色申告の申請の順に進む。

横浜市港北区のように、検査のあとに適合確認書の発行まで1週間程度かかる地域もあります。オープンの日を告知する前に、検査と確認の日程が開業日に間に合うかを保健所と確かめておくと安心です。

東京消防庁の例:防火対象物使用開始届出書

東京消防庁の案内では、建物や建物の一部を使い始める人は、使用を始める7日前までに管轄の消防署へ届け出る必要があるとしています。対象の例は、建物の建築後、間取りや天井の高さを変える改装工事の後、テナントの入れ替え後です。届出をするのは実際に使う人(テナントで営業する人)で、工事業者ではないと明記されています。届出のあと、使い始める前に消防署の検査を受けます(内容によって省略される場合もあります)。東京消防庁の管轄は東京23区と多摩地区(稲城市を除く)なので、ほかの地域は所轄の消防署に確かめてください。

税務署の開業届と青色申告

国税庁のタックスアンサー No.2090(令和8年4月1日現在法令等)では、個人事業の開廃業等届出書の提出期限を「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」としています。解説記事の中には「開業から1〜2か月以内」などと書いたものもあり、記事の時点や対象にしている書類の違いと考えられます。提出の前に、国税庁の最新の案内で期限を確かめてください。

青色申告をしたい場合は、所得税の青色申告承認申請書を、原則として青色申告をする年の3月15日までに出します。その年の1月16日以後に開業した場合は、開業の日から2か月以内です。家族に給与を払う場合の青色事業専従者給与に関する届出書、消費税やインボイス(適格請求書発行事業者の登録)の手続きもあります。どれを出すかは店の形で変わるため、税理士や税務署に相談して決めるのが安全です。

書類のチェックリスト:出す先ごとにそろえるもの

ここまでの内容を、そろえる書類のチェックリストにまとめます。「地域で違う」と書いた項目は、店の住所を管轄する保健所の案内で、部数・原本か写しか・有効期間を確かめてください。

出す先書類必要になる人地域で違う点そろえたか
保健所美容所の開設届(所定の様式)すべての開設者様式・部数□
保健所施設の平面図、付近の見取図などすべての開設者図面の種類・部数□
保健所美容師免許証従事する美容師全員原本か写しか□
保健所診断書(結核・感染性皮膚疾患の有無)美容師全員、または見習いを含む従業員全員対象・有効期間□
保健所管理美容師講習会の修了証美容師が常時2人以上の店原本か写しか・部数□
保健所登記事項証明書開設者が法人の場合発行からの期間□
保健所住民票の写し(国籍等の記載があるもの)開設者が外国人の場合(横浜市港北区・大阪府の例)求めるかどうか□
保健所手数料すべての開設者金額・払い方□
消防署防火対象物使用開始届出書と概要表(東京消防庁の例)建物や建物の一部を使い始める人管轄の消防本部の様式□
税務署個人事業の開廃業等届出書個人で開業する人全国共通□
税務署青色申告承認申請書・給与支払事務所等の開設届出書など青色申告をする人、給与を払う人全国共通□

診断書には有効期間があり、管理美容師の修了証は講習会を修了していることが前提です。この2つは、物件が決まった時点で誰がいつ用意するかを決めておくと余裕を持てます。

開業後に出す届出:変更届・廃止届・移転

美容所の手続きは、開業したら終わりではありません。美容師法では、届け出た事項に変更が生じたときや美容所を廃止したときは、すみやかに届け出ることになっています(第11条第2項)。自治体の案内にある具体的な場面は、次のとおりです。

場面自治体の案内の例
従業員を雇った・退職した札幌市:雇い入れ後すみやかに従業者変更届と診断書(美容師は免許証の提示も)。退職後も従業者変更届。横浜市港北区:入店・退店も変更届が必要
セット椅子の台数や営業面積を変える札幌市:開設変更届。大幅な増改築は新規の開設届になる場合がある。横浜市港北区:工事開始前に相談
店名・法人の代表者・営業者の住所を変える横浜市港北区:変更届が必要
移転する札幌市:移転先で新規の開設届、移転前の施設は閉店後に廃止届
店を譲り受ける美容師法 第12条の2で地位の承継の規定あり。札幌市:大幅な変更があれば新規の開設届が必要になることも。大阪府:令和5年12月13日から譲渡承継の手続きを変更

税務署の開廃業等届出書も、事業所の新設・移転・廃止や事業をやめるときに使う書類だと国税庁は説明しています。スタッフの入れ替わりがあるたびに保健所への届出が要る地域もあるため、採用と退職の手続きの一覧に「保健所への届出」を入れておくと漏れを防げます。

開業前に、届出と一緒に準備しておくこと

保健所の検査が終われば営業を始められますが、お客様を迎える準備は届出とは別に必要です。初めての来店で聞くことをまとめたカウンセリングシートと、施術の内容を残すカルテは、オープンの日から使える状態にしておきたい用紙です。項目の例はカウンセリングシートの項目例とサロンのカルテ テンプレートで紹介しています。開業後に毎月見る売上と費用の数字は、美容室経営・サロン経営の基本で一覧にしています。

Leporto は、予約・顧客・カルテ(音声カルテを含む)と、売上と集客の分析をまとめた経営改善型の予約管理システムです。来店前にWebでカウンセリングシート(問診)を入力してもらえるため、開業時から紙の用紙と予約の記録を分けずに管理できます。

参考にした公的機関の資料

いずれも2026年10月18日に参照しました。

よくある質問

美容室の開業届はいつまでに出せばよいですか

保健所の美容所の開設届は、営業を始める前に出し、検査確認を受ける必要があります。時期の目安は札幌市が営業開始の2〜3週間前、横浜市港北区が開設希望日の1〜2週間前と、地域で違います。税務署の開業届は、国税庁の案内では事業を始めた年分の確定申告期限までです。どちらも最新の案内を管轄の保健所・税務署で確かめてください。

美容師が自分1人でも管理美容師の資格は必要ですか

美容師法で管理美容師を置く必要があるのは、美容師である従業者が常時2人以上いる美容所です。1人で営業している間は対象になりませんが、2人目の美容師を雇う時点で必要になります。講習会を受けられるのは、免許を受けたあと3年以上美容の業務に従事した人です。

診断書はどこで取ればよいですか

札幌市の案内では、保健所は特定の医療機関を紹介しておらず、作成の費用も医療機関に問い合わせるよう書かれています。結核と感染性皮膚疾患の有無を記載してもらう必要があるため、保健所が公開している様式を持って、近くの医療機関に問い合わせてください。有効期間は地域で違い、札幌市は6か月以内、横浜市港北区は3か月以内です。

居抜き物件や、前の店を譲り受ける場合も届出は必要ですか

札幌市の案内では、既存の美容所の施設を譲り受けて経営する場合も同様の手続きが必要とされています。事業譲渡で営業者の地位を承継できる場合もありますが、大幅な変更があれば新規の開設届が必要になることがあります。手続きが変わることもあるため、契約の前に保健所へ相談してください。