美容室の歩合制の計算方法:指名・フリー・店販の計算表と、法律の確認点

スタッフルームの机に色の違う三つのトレーが並び、カードを仕分けたあとで電卓をたたいている手元

美容室の歩合制は、スタッフごとの売上を「指名・フリー・店販」に分け、それぞれに歩合率を掛けて合計し、固定給に足す形で計算するのが基本です。ただし、雇用しているスタッフの場合は、計算した給与が最低賃金を下回っていないか(歩合給は総労働時間で割って確かめる)、出来高払制の保障給を決めているか、残業があれば歩合給にも割増賃金を払っているかを確かめる必要があります。この記事では、計算表の例、固定給と歩合の組み合わせ方、厚生労働省の資料にもとづく法律の確認点、スタッフ別の売上を正しく集める方法を順に説明します。

美容室の歩合制の仕組みと、固定給+歩合・完全歩合の違い

歩合制は、売上などの成果に応じて給与の一部を決める仕組みです。厚生労働省の「スタートアップ労働条件」の Q&A では、歩合給制を「売上高や契約成立件数等の一定の成果に対して、定められた金額を支払う賃金制度」と説明し、「出来高払制」とも呼ばれるとしています。

美容室でよく使われる形は、次の2つです。

形仕組み主な対象
固定給+歩合毎月の固定給に、売上に応じた歩合給を足す雇用しているスタイリスト
完全歩合固定の部分がなく、成果だけで報酬が決まる業務委託の美容師など

雇用しているスタッフについては、成果がゼロの月でも一定の賃金を保障する決まりがあるため、固定の部分のない完全歩合をそのまま当てはめることはできません(後の章で説明します)。「歩合」と「インセンティブ(目標を達成したときの手当)」は同じ意味で使われることもあります。給与規程では、どの売上に何%を掛けるのかを言葉で定義しておくと、呼び方の違いで誤解が生まれません。固定給と歩合の割合を変えると、店の費用のうち固定費と変動費の割合も変わります。損益への影響は美容室の利益率と原価率で計算例を示しています。

歩合の計算のもとになる売上を決める

計算を始める前に、「どの売上に歩合を掛けるのか」を決めます。ここがあいまいだと、毎月の計算のたびにスタッフと食い違いが起きます。

決めること選択肢の例
売上の範囲技術売上だけか、店販売上も含めるか
税込か税抜か消費税を除いた額で計算するか
割引・クーポン割引後の実際の売上で計算するか
指名とフリーの区別予約のときの指名の有無で分けるか、来店時に決めるか
薬剤・材料の費用差し引いてから掛けるか、差し引かないか
複数のスタッフが担当したとき担当を1人にするか、作業ごとに分けるか
締め日毎月何日で区切るか(会計日か来店日か)

指名とフリーの区別は、店によって決め方が違います。予約のときに担当を指定したお客様を「指名」とするなら、予約の記録に指名の有無が残っている必要があります。店全体の売上の集め方は、売上管理の始め方にまとめました。

計算表の例:指名・フリー・店販に分けて計算する

次の表は、固定給+歩合の計算例です。歩合率や金額は計算の流れを示すための例で、業界の相場や推奨の率ではありません。

区分月の売上(税抜)歩合率歩合給
指名の技術売上600,000 円10%60,000 円
フリーの技術売上300,000 円5%15,000 円
店販の売上50,000 円10%5,000 円
歩合給の合計80,000 円
固定給200,000 円
支給額(残業代・手当を除く)280,000 円

上の表の計算の流れを、歩合給と固定給に分けて次の図にしました。

固定給+歩合の計算例の図。歩合給は、指名の技術売上600,000円×10%=60,000円、フリーの技術売上300,000円×5%=15,000円、店販の売上50,000円×10%=5,000円の合計80,000円。これに固定給200,000円を足した280,000円が支給額(残業代・手当を除く)になる。率と金額は計算の流れを示す例。

指名の歩合率をフリーより高くすると、お客様に選ばれる技術や接客を続ける理由になります。フリーの歩合率を低くしすぎると、新規のお客様の担当を避ける動きが生まれることもあるため、店の集客の状況とあわせて決めます。

一定額を超えた分に掛ける「足切り」の形

売上の全額ではなく、一定額を超えた部分だけに歩合率を掛ける形もあります。例として、技術売上 900,000 円のうち 500,000 円を超えた 400,000 円に 15%を掛けると、歩合給は 60,000 円です。固定給がその一定額の売上に見合う額として決められていれば、店の人件費の割合を安定させやすくなります。どちらの形でも、計算のしかたを給与規程に書いて、事前に説明しておきます。

固定給と歩合の組み合わせ方の3つの型

固定給と歩合の比率は、店が何を重視するかで変わります。次の表は考え方の整理で、どの型が正しいというものではありません。

型固定給と歩合の関係向いている場面気をつけること
固定給を厚くする固定給が大半で、歩合は少なめ育成中のスタッフが多い、チームで接客する成果が給与に表れにくく、売上の高いスタッフが不満を持つことがある
段階で率を上げる売上の段階ごとに歩合率を上げる指名を増やしたいスタイリストが多い段階の境目の前後で、無理な勧誘が起きないか見る
歩合を厚くする固定給を抑え、歩合の比率を大きくする指名の多いスタイリストが中心売上の少ない月の最低賃金と、保障給の定めを毎月確かめる

どの型でも、過去3〜6か月のスタッフ別の売上を表に入れて、新しい計算でいくらになるかを試算してから決めます。月ごとの増減も見て、売上の少ない月にどこまで下がるかを確かめておくと安心です。

計算方法を変えるときの進め方

歩合の計算方法を変えるときは、次の順で進めると、スタッフとの行き違いを減らせます。

  1. いまの計算方法と、変えたい理由を書き出す
  2. スタッフ別に、過去の売上で新旧の計算を比べる表を作る
  3. 給与が下がるスタッフがいる場合の扱いを考える
  4. 給与規程(就業規則)を書き直し、スタッフに説明する
  5. 変えた後の数か月は、旧の計算もあわせて出して比べる

給与の決め方をスタッフに説明できる形にしておくことは、定着の面でも役に立ちます。定着のための見直しは、美容室のスタッフが辞める理由と定着の対策にまとめています。

給与が下がる方向の変更は、労働条件の変更にあたるため、進め方によっては問題になる場合も考えられます。手続きは、詳しくは社会保険労務士などの専門家へ相談してください。

法律の確認1:歩合給を総労働時間で割って最低賃金と比べる

雇用しているスタッフの歩合給にも、最低賃金法が適用されます。厚生労働省のスタートアップ労働条件の Q&A では、固定給と歩合給がある場合、次の(A)と(B)を足した額を最低賃金と比べる方法が示されています。

  • (A)固定給 ÷ 1か月平均所定労働時間
  • (B)歩合給 ÷ その賃金計算期間の総労働時間

上の計算例で、1か月平均所定労働時間を 160 時間、その月の総労働時間を 200 時間とすると、次のようになります(時間はいずれも例です)。

部分計算1時間あたり
(A)固定給200,000 円 ÷ 160 時間1,250 円
(B)歩合給80,000 円 ÷ 200 時間400 円
合計(A)+(B)1,650 円

この合計が、店のある都道府県の最低賃金以上かを確かめます。最低賃金の額は都道府県ごとに決まっており、改定されることもあるため、最新の額を厚生労働省のページで確認してください。注意したいのは、売上が少ない月です。歩合給が小さくなり、練習や片付けで労働時間が長い月は、1時間あたりの額が下がります。固定給を低く設定している店ほど、毎月この確認をしておく必要があります。

法律の確認2:出来高払制の保障給(労働基準法第27条)

労働基準法第27条は、出来高払制(歩合給制)で働く労働者について、労働した時間に応じて一定の賃金を保障するよう定めています。厚生労働省の Q&A では、次の点が説明されています。

  • 成果が少ない場合でも、働いた以上は一定の賃金を保障することが使用者に義務付けられている
  • 固定給の部分が賃金総額の大半(おおむね6割程度以上)を占める人は、この規定の対象にならない
  • 保障給の額に法律上の定めはないが、少なくとも平均賃金の6割程度を保障することが妥当とされている
  • 保障給を定めていないことも法違反になると解されるため、対象になる歩合給制では、就業規則や労働契約で保障給を定めておく必要がある

上の計算例では、支給額 280,000 円のうち固定給が 200,000 円(約 71%)です。この割合は月の売上によって変わるため、歩合の比率が大きくなる設計にするときは、保障給の定めが必要かを確かめてください。自店の給与の形が対象になるか、保障給をいくらにするかは、詳しくは社会保険労務士などの専門家へ相談してください。

法律の確認3:歩合給にも割増賃金(残業代)がかかる

時間外労働があった場合は、歩合給の部分にも割増賃金を払う必要があります(労働基準法第37条)。同じ Q&A によると、歩合給の割増賃金は、固定給とは計算のしかたが一部違います。

歩合給は、残業した時間も含めた総労働時間の成果として計算されるため、基本の 100%の部分は払い済みと考え、割増の部分(時間外は 0.25)だけを払うのが原則とされています。計算式は次のとおりです。

  • 歩合給の時間外割増 = 歩合給 ÷ 総労働時間 × 0.25 × 時間外労働の時間

上の例で、総労働時間 200 時間のうち時間外労働が 20 時間だったとすると、80,000 円 ÷ 200 時間 × 0.25 × 20 時間 = 2,000 円です。固定給の部分の割増賃金は、これとは別に計算します。法定休日の労働は 0.35、深夜(22時〜翌5時)は 0.25 の加算、時間外労働が月 60 時間を超えた部分は 0.25 の加算があると、同じ Q&A に書かれています。

営業後の練習やミーティングが労働時間に当たるかどうかも、総労働時間の数え方に関わります。勤怠の記録の付け方は、サロンのシフト・勤怠の管理を参考にしてください。

業務委託の美容師に歩合で払う場合の注意

業務委託の契約を結んだ美容師に、完全歩合の報酬で払う店もあります。業務委託か雇用かによって、最低賃金や割増賃金の扱いが変わる可能性があります。そのため、契約の形を決める前に確かめておくことが大切です。業務委託にするか雇用にするかの判断や契約書の内容は、詳しくは社会保険労務士や弁護士などの専門家へ確認してください。

スタッフ別の売上を正しく集める方法

歩合の計算が正しくても、もとになるスタッフ別の売上がずれていれば、給与もずれます。次の3つを、会計のたびに記録できる仕組みにしておきます。

記録することいつずれやすい場面
担当スタッフ予約のとき・会計のとき当日に担当を代わった
指名かフリーか予約のとき電話予約で指名を聞き忘れた
店販を勧めたスタッフ会計のとき受付のスタッフが会計だけした

紙の売上ノートや表計算ソフトで集計すると、月末にまとめて入力するときに漏れや取り違えが起きやすくなります。予約・会計と同じシステムで担当と指名の区分を記録しておけば、月末の集計の手間を減らせます。経営改善型の予約管理システム Leporto では、予約・顧客の記録とスタッフの勤怠を一緒に管理できるのが特徴です。勤怠では、打刻、シフトの登録、有給の申請、経費の申請を、アプリか LINE の LIFF(LINE の中で開く画面)から行えます。分析の画面では、スタッフ別の次回予約率や稼働率も確かめられます。給与の計算そのものを行う機能の有無は、導入前に確認してください。

歩合を売上だけで決めると、売上の高いメニューばかりを勧める動きが出ることもあります。スタッフ別の稼働率や次回予約率もあわせて見ると、評価の偏りに気づきやすくなります。それぞれの見方は、サロンの稼働率の計算と次回予約率の計算と上げ方を参考にしてください。歩合とは別に、数字と行動を評価に組み込む方法は、美容室の評価制度の作り方で扱います。

参考にした公的機関の資料

いずれも2026年10月18日に参照しました。

よくある質問

美容室の歩合率は何%が一般的ですか?

この記事では、公的な統計で確かめられる「一般的な率」を示していません。歩合率は、固定給の額、店の家賃や材料費、集客の方法によって適切な水準が変わるためです。人件費の総額が売上に対してどのくらいになるかを、計算表で試算してから決めてください。

歩合給だけで最低賃金を満たしていればよいですか?

固定給がある場合は、固定給を1か月平均所定労働時間で割った額と、歩合給を総労働時間で割った額を足して、最低賃金と比べます(厚生労働省のスタートアップ労働条件の Q&A)。歩合給だけで比べるわけではありません。

歩合給に残業代は必要ですか?

時間外労働があれば必要です。歩合給の割増賃金は、歩合給を総労働時間で割った額に、割増率と時間外労働の時間を掛けて計算するのが原則とされています。固定給の部分は別に計算します。

アシスタントにも歩合をつけるべきですか?

決まりはありません。アシスタントの売上を個人に分けにくい場合は、店全体の売上や、担当した施術の件数に応じた手当にする方法もあります。どの形にしても、最低賃金と割増賃金の確認は同じように必要です。

雇用しているスタイリストを完全歩合にできますか?

厚生労働省の Q&A によると、出来高払制で働く労働者には、労働した時間に応じた保障給を定める必要があり、最低賃金法も適用されます。成果がゼロの月に給与がゼロになるような完全歩合を、雇用しているスタッフにそのまま当てはめることはできないと考えられます。給与の形を決めるときは、詳しくは社会保険労務士などの専門家へ相談してください。