美容室のスタッフが辞める理由と定着の対策:離職率の見方と、面談・シフト・給与の見直し

美容室の離職率として紹介される数字は、調査によって「誰を数えたか」「どの期間か」が違うため、そのまま比べられません。店の対策に使うなら、業界の数字より、自店の離職率と定着率を同じ式で毎年測るほうが役に立ちます。調査で辞める理由の上位に出るのは給与、職場環境・人間関係、拘束時間などです。この記事では、統計の読み方、自店の離職率の計算、そして面談・シフト・技術の成長・給与・新人の受け入れの5つの見直し方を順に説明します。
美容室の離職率の数字は、定義をそろえて読む
「美容師の離職率」として出回る数字は、記事によって大きく違います。どれかが間違っているというより、数えている対象や期間が違うことがほとんどです。数字を見るときは、次の3点を確かめます。
| 確かめる点 | 違いの例 |
|---|---|
| 対象 | 新卒だけか、美容師全体か、免許を持つ人全体か。美容室だけか、ほかのサービス業を含む広い業種か |
| 期間 | 入社から1年以内か、3年未満か、ある1年間か |
| 分母 | その期間の初めにいた人か、入社した人か、免許を持つ人か |
たとえば、リクルートの調査研究機関「ホットペッパービューティーアカデミー」の「美容サロン就業実態調査(2024年)」は、@DIME の記事(2024年5月4日)で次のように紹介されています。
| 報道で紹介された数字 | 何を数えた数字か(記事の説明) | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 36.7% | 美容師の初職の就業期間が「3年未満」だった人の割合 | 3年間の累計。1年ごとの離職率とは別物 |
| 48.0%(前年比1.5ポイント増) | 「美容師離職率」 | 記事に定義の説明がない |
| 1年以内の美容師離職率 | 前年からほぼ横ばい(前年比0.2ポイント増)とだけ記載 | 値そのものは記事に載っていない |
同じ36.7%という数字を、人材サービス会社のプレスリリース(2025年4月17日、ASCII STARTUP に掲載)は「初職を美容師とする人の3年未満の離職率」と書き、出典を厚生労働省の「理容業・美容業に関する関連データ」とし、その注にリクルートの調査を挙げています。同じ数字でも、紹介する側によって言い方や出典の書き方が変わる例です。記事や提案書で業界の数字を使うときは、調査の元の資料で対象と期間を確かめてから使いましょう。
この調査の本調査は、美容師・ネイリスト・エステティシャン・リラクゼーションセラピスト・まつげエクステスタッフの2,899人が対象のインターネットリサーチです(同記事の調査概要)。国の統計の業種別の離職率とは、調べ方も対象も違います。
美容師が辞める理由:調査で上位に出る項目
同じ報道によると、この調査で美容師が初職を辞めた・転職した理由の1位は給与に関する不満で、4人に1人以上が答えています。上位には職場環境や人間関係への不満も入っていました。先のプレスリリースが同じ調査の結果として挙げるのは、給与への不満(27.8%)、結婚・妊娠・出産(18.8%)、拘束時間への不満(15.6%)です。
一方で、辞めた人が美容の仕事に戻ってくることも少なくありません。同じ報道では、現役の美容師の4割以上に「美容師を辞めた経験がある」とされています。復職のきっかけの3位は「勤務条件に合うサロンが見つかったから」(19.2%)でした。条件が合えば続けたい人がいる、ということです。
辞める理由を、店で手を打てることに置き換えると次の表になります。
| 辞める理由 | 店で確かめること | この記事の節 |
|---|---|---|
| 給与への不満 | 給与の決め方を本人が説明できるか。昇給の条件が見えているか | 見直し4 |
| 職場環境・人間関係 | 困りごとを話せる場が定期的にあるか | 見直し1 |
| 拘束時間・休み | 練習や片付けを含めた実際の時間、休みの偏り | 見直し2 |
| 将来が見えない | 次の段階に進む条件と、今の到達度が分かるか | 見直し3 |
| 結婚・妊娠・出産 | 短い時間で働く選択肢を話し合えるか | 見直し2 |
| 入社前のイメージとの差 | 入社前の説明と、最初の3か月の段取り | 見直し5 |
自店の離職率と定着率を計算する
業界の数字より先に、自店の数字を測ります。式は次の2つを基本にし、毎年同じ式で比べます。
| 指標 | 式 |
|---|---|
| 離職率(%) | 期間中に辞めた人数 ÷ 期間の初めに在籍していた人数 × 100 |
| 定着率(%) | 期間の初めに在籍していた人のうち、期間の終わりにも在籍している人数 ÷ 期間の初めに在籍していた人数 × 100 |
迷いやすいのは、期間の途中で入社して途中で辞めた人の扱いです。下の記入例は、説明のための仮の数字です。
例:4月1日に8人が在籍。年度の途中で2人が入社。年度中に3人が退職(4月からいた2人と、途中で入社した1人)。翌年3月31日の在籍は7人。
| 数え方 | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| A 期初からいた人だけで見る | 2 ÷ 8 | 離職率25.0%(定着率75.0%) |
| B 辞めた全員を期初の人数で割る | 3 ÷ 8 | 37.5% |
| C 辞めた全員を「期初+入社」で割る | 3 ÷ 10 | 30.0% |
同じ店の同じ1年でも、数え方で25.0%から37.5%まで変わります。業界の数字がばらつくのと同じ理由です。どれを使ってもかまいませんが、一度決めたら変えないことが大切です。
新人の定着を見るには、入社した年ごとに分けて「1年後の定着率=入社した人のうち1年後も在籍している人数÷入社した人数」も出します。例として、前年度に3人入社して1年後に2人が残っていれば66.7%です。少人数の店では1人の退職で数字が大きく動くため、率と一緒に人数も書き、3年分を並べて見ると傾向がつかめます。
計算の手順を図にすると、次のようになります。

記録は、次の表のように一人1行で残しておくと、手順3と4が楽になります。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 名前(イニシャルでよい) | A.S. |
| 入社日・職種 | 2025年4月1日・アシスタント |
| 退職日 | (在籍中は空欄) |
| 退職の理由(本人の言葉) | 面談や退職の申し出のときの言葉をそのまま書く |
| それまでの面談で出ていた話 | 「閉店後の練習が続いて疲れている」など |
最後の項目があると、辞める前にどんな話が出ていたかを後から振り返れます。次の見直し1の面談の記録がそのまま使えます。
見直し1:面談(1on1)の頻度と質問リスト
人間関係や働き方の不満は、本人から言い出しにくいものです。定期的に話す場を、オーナーや店長の側から決めておきます。頻度の決まりはありませんが、たとえば入社から3か月は2週間に1回、その後は月に1回、1回15〜30分という形で始めると続けやすいでしょう。
厚生労働省のサイトに載っている美容室の職業能力開発計画の事例にも、定期的な評価結果に基づいてオーナーと面談し、担当業務を振り返って課題と解決の方向を確かめる、という仕組みがあります。
質問は、毎回すべてを聞く必要はありません。次の表から2〜3問を選びます。
| テーマ | 質問の例 |
|---|---|
| 体調と時間 | 最近、疲れが残る日はありますか。練習や片付けで帰りが遅くなる日は週に何日ありますか |
| 仕事の量 | 予約の入り方で、きついと感じる曜日や時間帯はありますか |
| 技術の伸び | 今いちばん練習したい技術は何ですか。練習の時間や相手は足りていますか |
| 人間関係 | 仕事の進め方で、誰かに言いにくいことはありますか |
| 給与と評価 | 給与の決まり方で、分かりにくいところはありますか |
| これから | 半年後にできるようになっていたいことは何ですか |
面談で大切なのは、聞いたことを記録し、店の側で何をするかを決めて次回に結果を伝えることです。聞くだけで何も変わらないと、本人は話さなくなります。評価の結果を伝える面談とは分けておくと、困りごとを話してもらいやすいはずです。評価制度の作り方は美容室の評価制度の作り方で扱います。
見直し2:シフトと休みの公平さ
拘束時間や休みの取りにくさは、辞める理由として繰り返し挙がります。シフトは、次の点を月に一度確かめます。
- 土日や祝日の出勤が、特定の人に偏っていないか
- 希望の休みが、誰の分も同じ基準で通っているか
- 休憩の時間が予約で埋まり、実際には取れていない日がないか
- 開店前の準備や閉店後の練習・片付けを含めた、実際の時間を記録しているか
- 短い時間で働きたい人と、どの時間帯なら働けるかを話し合えているか
法律の面では、厚生労働省のページ「労働時間・休日」で、原則として1日8時間・1週40時間を超えて働かせてはいけないこと、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えることが説明されています。休日は、少なくとも毎週1日か、4週間を通じて4日以上です。年次有給休暇は、6か月続けて勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤した人に10日を与えるとされています。閉店後の練習が労働時間に当たるかどうかなど、店ごとの扱いは働き方の実態で変わることがあります。詳しくは社会保険労務士などの専門家や労働基準監督署に確かめてください。
予約の数から必要な人数を出すシフトの組み方は、サロンのシフト管理で手順を説明しています。
見直し3:技術の成長を見える形にする
アシスタントの時期は、自分がどこまで来ていて、あと何ができればスタイリストになれるのかが見えないと、先の不安が大きくなります。段階ごとに求める技術と合格の基準を書き出し、確かめた日を残します。
| 段階 | 技術の項目(例) | 合格の基準(例) | 確認した日・確認した人 |
|---|---|---|---|
| アシスタント | シャンプー | 店で決めた手順を、決めた時間内でできる | |
| アシスタント | カラーの塗布 | 決めた範囲を、ムラなく決めた時間内で塗れる | |
| メインアシスタント | ベーシックカット | モデルで店の基準を満たす | |
| スタイリスト | 担当の予約 | 一人で予約を担当できる |
基準の中身は店ごとに決めます。前の節で触れた厚生労働省のサイトの美容室の事例でも、アシスタント、メインアシスタント、スタイリスト、店長の段階ごとに求める内容を書き出しています。その中にはモデルカットの人数を目標にしている店もありました。
スタイリストになった後は、指名の数や次回予約率、稼働率など、数字で成長を見られる項目も増えます。ただし、数字を評価や給与に直接つなげるかどうかは別の判断です。数字の見方は次回予約率の計算と上げ方や美容室の稼働率の計算方法が参考になります。
見直し4:給与の決め方を説明できるようにする
給与への不満は、額だけでなく「なぜこの額なのか分からない」ことからも生まれます。次の4つを書面にして、入社のときと変更のときに本人へ説明します。
- 基本給(固定給)の額と、何で決まっているか
- 歩合がある場合は、どの売上に何%を掛けるか(指名・フリー・店販の区分)
- 昇給や段階が上がる条件と、見直しの時期
- 評価の結果が、給与のどこに反映されるか
歩合の計算表の作り方や、最低賃金・保障給・割増賃金の確かめ方は、美容室の歩合制の計算方法で詳しく説明しています。給与の仕組みを変えるときは、雇用契約や就業規則との関係もあるので、社会保険労務士などの専門家に相談してから進めてください。
見直し5:新人の受け入れ(最初の3か月)
入社前のイメージとの差は、最初の数か月で表に出やすいものです。受け入れの段取りを決めておくと、誰が教えても同じ流れになります。入社前の説明は、求人票や面接で伝えた内容とそろえておくことも大切です。求人票の項目と面接の質問シートは美容室の採用にまとめています。
| 時期 | すること |
|---|---|
| 入社前 | 勤務時間、休み、練習の時間、給与の決め方、最初の3か月の流れを説明する |
| 初日 | 店の決まり(予約・会計・掃除の流れ)を案内し、相談役の先輩を決める |
| 1週目 | 担当する仕事を絞り、できたことを毎日確かめる |
| 1か月 | 面談で、入社前の説明と違うと感じたことを聞く |
| 3か月 | 技術の表で到達度を確かめ、次の3か月の目標を一緒に決める |
相談役の先輩には、教える時間をシフトの中で確保しておきます。予約が詰まったまま教える役も任せると、先輩の負担が増え、今度は先輩が辞める理由になりかねません。
Leporto でシフトとスタッフ別の稼働率を見る
Leporto は、予約・顧客・カルテと一緒にスタッフの勤怠を管理できる、経営改善型の予約管理システムです。打刻、シフトの登録、有給の申請、経費の申請は、アプリか LINE の LIFF(LINE の中で開く画面)から行えます。分析の画面では稼働率を、月ごとに店全体とスタッフ別で見られます。稼働率は、施術の時間(予約のメニューの所要時間と、会計で追加した施術の時間の合計)を、シフトの出勤予定時間で割った値で、今月から2か月先までの予測もあります。
スタッフ別の稼働率が高い状態が何か月も続いている人は、休憩が取れていない、練習の時間がないといった負担を抱えている可能性があります。面談で話を聞くきっかけにできるでしょう。逆に低い人については、予約の割り振りや集客の手伝いを考える材料として使えます。見られる数字は売上・集客の分析の機能ページで紹介しています。
参考にした公的機関の資料
いずれも2026年10月18日に参照しました。
- 厚生労働省「労働時間・休日」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/index.html
- 厚生労働省「職業能力開発計画事例310」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02758.html
よくある質問
美容室の離職率は何%なら普通ですか
調査によって対象と期間が違うため、「普通」と言える一つの数字はありません。業界の数字と比べるより、自店の数字を同じ式で毎年測り、前の年より良くなっているかを見るほうが、対策の効果を確かめられます。
スタッフが2〜3人の小さな店でも離職率を出す意味はありますか
1人の退職で数字が大きく動くので、率だけで判断するのには向きません。ただ、入社日・退職日・退職の理由を一人ずつ記録しておけば、辞めた時期や理由に共通点がないかを振り返れます。率は人数と並べて書き、数年分をまとめて見てください。
面談の時間が取れません
1回15分でも、決まった頻度で続けることのほうが大切です。予約表に面談の枠を先に入れ、予約で埋めないようにします。全員と同じ頻度が難しければ、入社から3か月以内の人を優先しましょう。
辞めたいと言われたら、引き止めるべきですか
まず理由を聞き、店で変えられることかどうかを確かめます。勤務時間や休み、担当する仕事の量など、変えられることなら選択肢を示して本人に決めてもらいます。退職の手続きや時期の扱いには法律が関わることもあるため、迷ったときは社会保険労務士などの専門家に相談してください。
